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         告状難 〔告状難〕は“なぜ”起きるのでしょう

 

 

 

 

1.党による指導

  中国の国家体制では、「中国共産党による一元的指導」が基本原則となっています。これは、党がすべての国家機関を指導することを意味しており、裁判も例外ではありません。

   近代的法治国家において裁判の独立は、裁判の公正性を確保する必要、不可欠な原則とみなされていますが、中国では裁判の正しさを確保するためには、党による指導が不可欠と考えられているのです。

   国家機関に対する党の指導は、原則として上級党委員会から下級党(国家)機関へという上下関係が主となっており、これを同級党委員会から同級党(国家)機関へという水平関係が補完するかたちで行われていますが、裁判機関と検察機関の場合は例外で、同級党委員会からの指導が主となっています。

   この指導関係は、国家機関の組織に反映されており、下の表で説明しましょう。

   中央を除く地方各級党委員会は、省級―地区級―県級の3級で構成されていますが、地方各級人民代表大会および地方各級人民政府は、省級―県級―郷級の級で構成されています。これに対し、地方の人民法院と人民検察院は、地方党委員会と同じ構成になっています。すなわち、地方党委員会が存在しない行政区画には、法院と検察院は置かれていないのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  党委員会のなかで、司法業務の指導を担当しているのは、政法委員会と呼ばれる組織です。公安、法院、検察院、司法行政機関などの責任者がメンバーとして参加しており、司法分野の活動を指導し、人事、財政などの決定権を掌握しています。ときには必要とみなせば、個別の案件に関与し、判決を決定することもあります。また、政法委員会は党委員会の内部組織ですから、それ自身は党委員会の指導を受けることになります。

 

2.地方保護主義

   中国の裁判でもっとも普遍的かつ深刻な問題とされているのは、地方保護主義です。以上の説明から、地方保護主義がどうして起こるかのメカニズムは、理解していただけたと思います。

  例をあげて、さらに分かりやすく説明してみましょう。

  A市の企業がB市の企業を相手取って、仮に損害賠償の請求を起こしたとしましょう。裁判はB市の法院で行われることになりますが、B市の企業が国有企業であれば、B市の企業も法院も、B市を所轄する党委員会の指導下に置かれています。この党委員会が、敗訴を受け入れがたいと考えれば、法院を指導して、そのような判決を出させないよう圧力をかけることは可能です。実際にもこのようなことがしばしば行われているからこそ、普遍的な問題になっているのでしょう。裁判官がこのような関係を意識して、みずからそのような判決を下すことも、十分にありうることです。

  この地方保護主義には、〔執行難〕という問題も付随しています。上の例では、仮にB市の法院が公正な裁判を行い、B市の企業に敗訴の判決を出したとしても、強制執行の段階まで行ったときに、法院がこれを実行しないという問題が残っているのです。訴えられた企業もここまで見通せば、裁判で勝訴するよう頑張る必要もない、というわけです。判決は紙切れ同然という、冷めた見方が少なくないのも、〔執行難〕の深刻さを物語っています。

 

3.〔告状難〕は司法改革の成果?

   しかし、中国も改革・開放政策のもとで、市場経済化、グローバル化を進め、法治主義の強化を掲げている以上、これらの問題を放置できないことは強く認識しています。90年代以降の司法改革の過程では、それなりに対策が講じられ、少しずつですが改善の兆しも見えているように思われます。言い換えれば、党も容易には個別の案件にまでは介入しにくくなっていると言えるでしょう。そのため、とりわけ行政機関の責任が問われ、党機関の責任問題に直結するような行政訴訟は、法院の前で門前払いにする必要が生じてきたのです。

   一方で、近年は物権法など、市民の財産を保護する法律が整備され、一般市民の法意識、権利意識が向上してきたこともあり、国家機関を相手とする行政訴訟は増加の一途をたどっています。

  〔告状難〕とは、法院が訴訟を受理しないため、裁判を起こすことが難しいことをいうものですが、地方保護主義に〔告状難〕が加わって、裁判に対する市民の不信感は強まるばかりです。

   もっとも、〔告状難〕は今に始まった問題ではありません。かつては法院や裁判官の数が少ないという物理的要因によって、あるいは国家機関における法院の相対的脆弱性のため自制的とならざるを得なかったことなどにより、〔告状難〕はかたちを変えつつ問題として存在し続けてきました。

   現在問題となっている〔告状難〕は、ある意味では、司法改革の過程で登場してきた、新しい今日的なかたちの、過渡的な〔告状難〕と言えるかもしれません。

 

 

 

 

 

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