中国法入門
田中信行研究室
中国法について知ろう
中国の国家機構には“なぜ”ズレがあるのでしょう
1.4級? それとも5級?
中国の行政区画は、全国、省級、県級、郷級の4級で構成されています。1950年代には、省級と県級のあいだに地区級を設けて、5級体制をとっていた時期もありました。現在もその名残として、省人民政府は地区級に出先機関を置いています。
下記の表が示すように、中国の国家機関はこの行政区画に応じて組織されているように見えますが、よく見ると、微妙なズレが存在します。すなわち、裁判、検察機関は地区級には設置されているのに、郷級に設置されておらず、権力機関や行政機関と少しズレているのです。
2.党と国家の指導関係
このズレは、たまたま行政改革の行き違いなどによって生じたわけではありません。そうではなく、党機関と国家機関とのあいだの指導関係によってもたらされているのです。つまり中国では、党が国家を指導する体制が採用されていますが、この指導関係は中央から地方へ至る上下の指導関係が主で、同級の党委員会が同級の国家機関を指導する横の指導関係は従とされています。
ところが、裁判、検察機関は横の指導関係が主で、上下の指導関係は従 という、他の国家機関とは異なる指導関係におかれているのです。
国家機関を指導する中国共産党の委員会は、中央委員会以下、地方各級に置かれていますが、表にあるとおり、現行の行政区画単位ではなく、裁判、検察機関と同じ区割りで設置されています。断るまでもなく、これは党委員会が裁判、検察機関に合わせたのではなく、その反対です。
党機関と国家機関とのこのようなズレは、おそらく広大な中国の領土を、いかに効率よく統治するかという問題に起因しているものと思われます。党組織は上から下へ、中央から地方へという命令系統が重視されるため、中央寄りに構成されているのに対し、国家機構の方は、やはり地方末端への行政サービスを充実させる必要上、地方分散的とならざるをえないのでしょう。中央と地方のバランスをいかに取るかという点での重点の置き方の違いが、このようなズレを生み出す原因なのではないでしょうか。
3.郷級はいらない?
近年、中国社会における経済格差の拡大、とりわけ都市に対する農村の立ち遅れが、三農(農業、農村、農民)問題として政策課題に浮上しました。そのなかで、行財政改革のひとつの案として、郷級機関の廃止が検討の対象に取り上げられました。
というのも、郷級には地方党委員会が存在しないため、郷級の問題は県級党委員会が決定しており、郷級機関はたんなる県級機関の下請けにすぎないというのが実態なので、廃止してしまった方が効率的だ、という意見が提起されたからです。かなり過激な改革案ですが、中国における党・国家体制の矛盾点を鋭く突いた問題提起には違いありません。
人民大会堂大会議場で開催される全国人民代表大会
最高人民法院
2015年6月11日に、第1審判決を受けた周永康
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