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                              民事裁判は9月までに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                

                                   年明けにどうぞ      南方週末

 

 

1.9月を過ぎると

  ほとんど信じがたいことですが、中国では、民事裁判をするなら、遅くとも9月中には訴状を提出しなければならない、ということが、司法関係者のあいだの常識です。10月に入るととたんに、人民法院に訴状を持って行っても受理してくれない、という事態に直面するからです。もちろん、訴状の提出は毎年9月で締め切り、などということが法律で規定されているわけではありませんし、絶対に受理されないというわけではありませんが、なかなか受理してもらえないのが実態のようです。いったいなぜ、そんなことが起こるのでしょうか。

  これは年間結審率という問題に起因しています。年間結審率とは、1年間に結審した訴訟件数を、受理した訴訟件数で割った数字ですが、毎年12月20日の時点における数字が、その年の年間結審率ということになります。もちろん、この数字が高ければ、速やかに訴訟が処理されたことになりますが、そんなに大事な意味のある数字なのでしょうか。

 

 

2.評価の重要な指標

  これまで人民法院の活動状況を外形的に示す数字のひとつとして、年間結審率はきわめて重要な指標と位置づけられてきました。この数字が高ければ、まじめに業務に励んでいると認められ、奨励金が支給されるという地方もありました。奨励金ではなくとも、翌年の予算に影響する可能性がある、と法院の関係者は受け止めているようです。

  裁判官個人については、さらに切実です。たとえば、昇任試験などの際に、この数字が評価の要素とみなされているからです。最高人民法院は、裁判官昇任試験の際の評価方法について、33の具体的な指標を定めていますが、当該裁判官の年間結審率は、そのなかでも重要な指標のひとつとみなされています。

  以上のような事情から、年間結審率を高めることは、法院、裁判官にとってとても重要なこと、と考えられてきました。そこで、この数字を引き上げるための対策のひとつとして、年末近くになると、訴訟を受理しないという対応がとられるようになった、というわけなのです。

  すべての法院が9月をもって一律に訴訟の受理を締め切っていた、というわけではありませんが、多くの法院、とりわけ基層人民法院では10月になると、裁判官が休暇中、出張中などと理由をつけて、年明けまで受理を引き延ばすという対応をしていた、と指摘されています。

  これを過去形で述べたのは、2011年3月に最高人民法院が上記の33の指標に代えて、31の新しい指標を導入した際、年間結審率ではなく、法定期限内結審率が採用されることになったからです。民事訴訟法によれば、原則として第1審は6ヵ月、第2審は3ヵ月が法定期限とされていますので、今後はこの期限内に結審するか否かという問題が、裁判官を悩ませることになりそうです。

 

3.変化はあるか

  さて、それでは、この最高人民法院の対応によって、この問題は解決するのでしょうか?

  まず、最高人民法院の基準変更は、裁判官の評価についておこなわれたものですから、法院の活動を評価することとは関係ありません。この点について、最高人民法院の関係者は、年間結審率の指標としての重要性は、今後も変わらない、と言明していますので、これをもってただちに、この問題は解決された、ということはできないようです。

  とはいえ、法院の活動状況を評価するのに、年間結審率を指標とするのが適当か、という疑問も、最高人民法院の基準変更をきっかけに、あらためて問題となっています。そもそも裁判業務を、こうした数字で評価すること自体がおかしいのではないか、というのは、まさしく正論ではありますが、そうした正論が通りにくくなっているのが、現代社会の特徴でもあります。

  年末になると何かと忙しいのは誰も同じでしょうが、裁判官も判決を急がねばならない、という事情があったとは、まったく想定外というほかありません。そんなことで、エイヤっと判決を出されても、ちょっと困りものですが。

  そういえば、教授の業績を論文の本数で評価する、という方法も、これに通ずるところがありますね*。 この点では、中国も日本も同じですが、これも中国が市場経済化したことの証というべきなのでしょうか。

 

      * 北京大学法学院の憂鬱 ・ 続

 

 

 

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