中国法入門
田中信行研究室
中国法について知ろう
死刑判決控訴審の公判審理化
・死刑判決は慎重に
中国刑事訴訟法の規定によれば、第2審は必ずしも公判を開く必要はなく、書面による審査のみで結審させることも認められています。しかし近年、中国における死刑の数が多すぎるとの批判や、冤罪問題などが重なり、死刑判決の手続きが厳格化されるようになっています。
「人民法院第2次5年改革綱要(2004~2008)は、この方針にしたがって、それまで高級人民法院に授権されていた死刑判決の審査・承認権を、2007年にすべて最高人民法院に回収するとともに、第2審で公判審理をおこなう方向への改革を掲げ、その実現に取り組んできました。
2005年末に、最高人民法院は「死刑第2審案件の公判審理をさらに改善するについての通知」を出し、2006年下半期以降の死刑判決控訴審については、公判審理を原則化するという方針を明らかにしましたが、これは実現しませんでした。というのも、2006年9月に最高人民法院と最高人民検察院が合同で定めた「死刑第2審案件公判審理のいくつかの問題についての規定(試行)」では、即時執行の死刑判決についてのみ*、公判審理が義務づけられる結果に終わったからです。ただしこの結果は、方針の変更ではなく、全国的な環境整備が整わなかったことが主な理由でしたので、条件の整った地域では公判審理の全面的実施へと、段階的に移行するようになっていました。
・公判審理化は進んでいるのか
2010年3月に最高人民法院が出した、「死刑判決を受けた被告が控訴せず、共犯の被告または付帯民事訴訟の原告が控訴した案件について、いかなる手続きを適用して審理すべきかについての回答」は、その標題が示す通り、被告本人が控訴していない死刑判決の第2審についての手続きについて、地方法院からの質問に答えたものですが、共犯者がいる場合、その共犯者から控訴が提起されれば、死刑判決を受けた被告全員について審理をおこない、しかも公判を開くべきであると指示しています。
そもそも、刑事訴訟法第186条は、共同犯罪の第2審について、全面審査、一括処理の原則を掲げており、共犯者のうちの誰かが控訴を提起した場合には、控訴を提起しない共犯者も含めて、案件を全面的に審査し、判決を見直すものと定めていますので、上の回答はこの原則を確認したものですが、これによって控訴していない死刑被告人についても、共犯者が控訴すれば第2審が開始され、公判が開かれることが明らかとなりました。とはいえ、すべてのケースについて公判が開かれるかという点については、法的根拠がないので、何とも言えませんが、この回答が公判審理の全面的実施という方針に沿うものであることは間違いありません。
今回の回答をもって、死刑判決控訴審の全面的公判化という改革が着実に進展していると見るか、いまだに明確な法改正が実現していないことをもって、改革が停滞していると見るかは、意見の分かれるところと思われますが、社会治安の維持という政治的課題に応えるため、刑事犯罪に対し厳罰で臨むことが求められている環境の下で**、死刑案件をいかに慎重に審理し、死刑を抑制するかについて、司法関係者の苦闘を垣間見るところです。
* 中国の死刑には、即時執行の死刑と、2年間の猶予期間がついた死刑の2種類があり、後者の場合は猶予期間中の服役態度を観察したうえ、死刑を執行するか減刑するかが判断される。とくに悪質と判断される問題がなければ、多くの場合、懲役刑に減刑される。
** 参考ページ 「増殖する公捕公判大会」
人民大会堂大会議場で開催される全国人民代表大会
最高人民法院
2015年6月11日に、第1審判決を受けた周永康
人民大会堂大会議場で開催される全国人民代表大会