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民法総則草案の審議始まる

 2016年6月27日に開催された第12期全国人民代表大会常務委員会第21回会議に、民法総則の草案が提出され、審議がスタートしました。

 草案ついて報告をおこなった法制工作委員会の李適時主任によれば、現時点で予定されている民法典の構成は、総則以下、契約、物権、不法行為、婚姻家族、相続の6編となるそうです。また、今後の立法作業としては、2017年3月の全人代会議で総則を成立させたのち、残りの各編を一括して2020年3月の同会議に提出し、統一民法典として成立させる計画だそうです。

民法総則が成立

 2017年3月に開催された第12期全国人民代表大会第5回会議は、民法総則の草案について審議した後、15日に採択、公布し、同年10月1日から施行する、と発表しました。11章207条だった草案は、最終的に1条減って、11章206条となりました。

 民法総則が成立したことにより、現行の民法通則はじめ契約法、物権法などと、その一部に抵触する規定が生まれることになりましたが、これらの問題については法改正はおこなわず、「新法は旧法に優先する」という原則で対応し、各則の成立時に統一を図るとの方針が示されました。したがって当面は、この点にかんする注意が必要となります。

                                 草案起草の準備がスタート

 2015年6月1日、全人代常務委員会は第12期全人代の立法計画を調整し、あらたに民法典を追加しました。すでに2014年の党第18期4中全会決定が、民法典編纂の方針を提示していたため、関係者、専門家のあいだでは、その準備に向けた動きが活発化していましたが、これによって、起草作業が本格化するものとみられています。

1.5回目のチャレンジ

 中国の民法典編算作業は、これまでに4回試みられ、いずれも失敗に終わっています。1954年、1962年、1979年の3回は、いずれも政治的な環境の悪化を受けて、あえなく挫折してしまいました。改革・開放時期になってからのはじめての挑戦となった1998年からの起草作業は、2002年に全人代常務委員会の審議にまでたどり着きましたが、議論百出のあおりを受けて、採択には至りませんでした。* したがって今回はじつに5回目のチャレンジということになります。

 

    * この時の事情については、「はじめての中国法」第10章に解説があります。

 

 もっとも、民法全般について規定した法律がないわけではなく、1986年に制定された「民法通則」は、民法のダイジェスト版ともいえるものです。その法律の名称から、民法総則かと思われるかもしれませんがそうではなく、民法の主要な部分を簡潔に規定したものなのです。当時は、民法典制定までのつなぎの役割を果たすものとして立法されたのですが、民法典がなかなか制定されないため、結果的に30年以上も長持ちすることになってしまいました。

 

2.条件は熟した?

 前回のチャレンジは、もともと物権法の起草作業に着手していた段階で、当時の李鵬全人代常務委員長の意向もあり、途中から民法典起草へと方向転換したものでした。その背景としては、民法を構成する相当の部分がすでに単行法として成立していたこともあり、残された主要な部分である物権法が成立すれば、民法典はほぼ完成するに等しい状況になっていたことを指摘することができます。李鵬委員長としては、今さら物権法に限定するのではなく、ここは一気に民法典を、と考えたわけです。

 その頃と比較すれば、今はすでにその物権法のみならず、不法行為法も成立して、民法典を構成する各編はすでに出来上がっている状態なので、残っている作業は全体を統一し、部分的に古くなった条文の補修をおこなって、化粧直しをすればよいだけ、ということになります。

 言い換えれば、あとはもう時間の問題だけ、ということになりそうなのですが、はたしてそう順調に運ぶでしょうか?

 

3.激烈な戦いが

 物権法の起草過程でも明らかになったことですが、民法典の内容をめぐっては、社会科学院法学研究所グループと人民大学グループとが、激しい論戦を繰り広げてきました。この関係は、今回の民法典起草でも変わらないようです。

 実際の草案作成を担当する全人代常務委員会の法制工作委員会は、すでに2014年10月に、党の第18期4中全会が「依法治国を全面的に推進するいくつかの問題についての決定」を採択し、そのなかで民法典制定の方針を明らかにしたことを受け、起草作業に着手すると同時に、まずはじめに民法総則の起草に取り組むことを明らかにしています。

 法学研究所グループにしても、あるいは人民大学グループにしても、すでに前回の起草時点で用意した各々の草案があるわけですから、いずれもその対応は素早く、前者はこの1月に報告会を開催して、彼らの草案をアピールしましたが、人民大学グループは中国法学会を動かし、法学会に「民法典編纂プロジェクト指導小組」を設置してこれを請け負い、同グループの草案をこの指導小組の草案に格上げする仕掛けまで準備しています。さらに指導小組の草案については、4月20日からパブリック・コメントの募集がおこなわれ、5月末に「専門家提案稿」として法制工作委員会に提出された、とのことです。

 

4.検察も参加

 さらに驚くのは、今回の起草作業に最高人民法院だけでなく、最高人民検察院までもが参加することになったことでしょう。前者は5月12日に、「民法典編纂工作研究小組」を発足させ、後者は6月5日に同名のグループによるはじめての会合を開催しています。

 ところが、最高人民法院の小組の組長に任命された奚暁明副院長が、7月12日に中央規律検査委員会から重大な規律違反の容疑で調査を受けることが判明したのです。思わぬ展開に最高人民法院は困惑しているでしょうが、一方で、顧問を招聘し、専門家委員会を設置するなど、やる気は満々のようです。

 スタート時点では人民大学グループが積極的な攻勢に出ているように見えますが、本格的な論戦が始まるのはまだこれからです。ひとまず、民法典の編別構成がどうなるか、第1ラウンドの行方に注目していきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

民法典関連の立法 

 

1980 婚姻法改正

1985 相続法

1986 民法通則

1995 担保法

1999 契約法

2007  物権法

2009 不法行為法

2010 渉外民事関係法律適用法

 

    

 

 

中国民法の特徴

 

 ・社会主義法型民法典

 

 日本民法もそうですが、近代民法は基本的に財産関係と身分関係を規定する法律となっています。

 これに対し、社会主義法型の民法は、身分関係を家族法として切り離し、財産関係についてだけ規定する法律となっています。

 1986年に制定された民法通則は、この原則を踏襲していますが、2002年に審議された民法典草案は、身分関係を含む近代民法型に変わっており、現在準備中の草案もこれに倣っています。   

 

 

 ・民事不介入は否定

 

 公益が優先される社会主義法では、処分権主義は制限的にしか認められず、検察には確定した民事判決に対する監督権が与えられています。また、公益訴訟を提起する権限も与えられています。

 

 

 

 ・民法通則と民法総則

 2017年に民法総則が制定されたことにより、民法通則と似た名前の法律が共存することになりましたが、いったい両者はどのような関係にあるのでしょうか?

 民法通則はその名称から、日本で言う民法総則のことではないかと思ってしまいそうですが、そうではありません。

 民法通則は1986年という、改革・開放が始まった初期の段階で、急ぎ民法を制定する必要から誕生した法律です。内容をじっくり検討する時間的余裕がなかったため、ひとまず必要不可欠とされた条文を集めて構成された、いわば臨時の民法で、重要規則集といった内容になっています。

 これに対し、民法総則の方は、日本の民法総則編にあたる内容で、その名が示す通りの法律です。

 現在の立法計画では、2020年に各則すべてが成立し、民法典となる予定ですので、その時には民法通則はその役割を終え、廃止されることになります。

 

   

 

 

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