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                        薄熙来裁判を検証する    続編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                            担当の裁判官と書記官。後列中央が裁判長。  CCTV

 

 

【公判審理】

・公判前整理手続き

 8月22日に始まった公判では、審理に先立って裁判長から、8月14日に検察、弁護側双方が参加して、公判前整理手続きがおこなわれたことが明らかにされました。

 

・起訴理由

 検察側による起訴状の朗読がおこなわれ、おおむね以下のような内容が示されました。

① 収賄罪

 2000年~2012年のあいだ、薄被告単独、または妻、谷開来、子、薄瓜瓜を通じて、大連国際発展有限公司総経理、唐肖林および大連実徳集団有限公司董事長、徐明から、計2000万元余りの賄賂を受け取った。

② 横領罪

 大連市政府が請け負った建設工事の代金、500万元を横領した。

③ 職権乱用罪

 2012年11月15日に、谷開来が、英国人ニール・ヘイウッドを殺害した事件が発覚した後、および2013年2月6日に王立軍が米国領事館に逃げ込む前後に、職権乱用行為をおこなった。

 

・ 審理

 審理は22日から26日まで、連続5日間、最初の3日間は午前8時半から、昼食、休憩をはさみながら、午後6時過ぎまで、後の2日間は午前8時半から午後1時過ぎまでと、中国の刑事裁判としては異例の長時間に及んでおこなわれました。審理でのやり取りは、法院の公式ミニブログで文字中継され、50万人余りが閲覧したと報じられています。 

 証人として徐明、王立軍らが出廷したほか、谷開来のビデオ証言も公開され、注目を集めました。 

 

・判決

 2013年9月22日午前、済南市中級人民法院は、薄熙来被告について起訴事実をすべて認め、無期懲役、終身の政治的権利剥奪、すべての個人財産没収という判決を下しました。

 この判決に対して、薄被告は、「判決は事実とかけ離れている。公正ではない」などと叫んで抗議したため、退廷を命じられたということです。その結果、法廷では控訴(中国は2審制のため、〔上訴〕という)する意思があるかについての確認がおこなわれませんでしたが、翌日、控訴の手続きがとられました。

 

 

【第1審裁判についてのコメント】

判決は予想通り?

 判決については、2年の猶予期間付き死刑から懲役15年のあいだ、という予想が出されていましたので、おおむね想定内の判決と言えます。

 起訴された容疑が、遼寧省時期の収賄、横領と、夫人の殺人事件隠匿、王立軍亡命事件関連に絞られたため、この起訴状の内容から判断する限り、厳罰は避ける方針であったものと推測されます。

 

5日連続の公判は予想外?

 メディアの多くは、当初2日程度と予定されていた公判が、5日にもなったのは計算違い、との見方が多いようですが、公判前整理手続きが実施されていますので、少なくともこの時点で、この程度の時間がかかることは予定されていたものと考えるべきでしょう。

 また、薄被告が無罪の主張をすることも、この時点で確認されていたものと考えられます。

 確かに、中国の裁判で5日連続の公判という事例は、ほとんど聞いたことがありません。近年は民事紛争の場合、数回にわたって公判が開催されることも珍しくはなくなってきましたが、刑事事件ではまだ職権主義的色彩が強く、公判は審理が1回、それに判決言い渡しを加えて、計2回というのが基本です。

 それではなぜ、今回の裁判ではこのような例外ともいえる長時間の公判が開催されたのでしょうか。

 その理由について、裁判関係者からは今のところ明確な説明がありませんが、勝手に推測すれば、2012年の刑事訴訟法改正が影響しているのではないかと考えます。

 この改正では、中国の裁判における証拠のいい加減さが問題となり、自白の強要(拷問)、証拠のねつ造などに対しては、厳しく審査することが求められました。薄被告は、重慶市などにおける打黒闘争で、拷問、でっち上げにより数多の冤罪事件を生み出したと、批判されていました。

 この裁判では、そうした被告に対し、改正された刑事訴訟法の規定にしたがい、慎重な証拠調べをおこなってみせることにより、新しい刑事裁判モデルを提示し、宣伝することが、ひとつのテーマとなったのではないかと考えます。

 

・薄熙来被告の全面否認は想定外?

 中国の刑法は、被告人が「功を立てる」〔立功表現〕ことがあった場合、刑を軽減するか免除する、と定めています(第68条)。「功を立てる」とは、他人の犯罪を告発したり、そのような結果につながる重要な情報を提供することを指します。

 薄熙来夫人=谷開来被告や王立軍被告は、いずれも薄被告の犯罪事実などについて供述したことにより、功を立てたと認定され、極刑を免れています。

 これに対し、薄被告の場合は、元中央政治局委員という、彼の経歴に対する政治的配慮から、極刑が排除されたため、薄被告には極刑を避けるために「功を立てる」という必要がなかったわけです。もちろん、進んで罪を認めれば、さらに刑が軽くなる可能性はあったかもしれませんが、薄被告はそれよりも無罪の主張を選択した、ということなのでしょう。

 

 

【参考資料】  中国語ですが

   ・ 起訴事実にかかわる事件と人物の関係図

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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