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                               外国企業に裏庭を渡すな

 

 

 

1.今頃なぜ?

 2011年5月23日の『経済参考報』に、「中国の裏庭は他国の農産物基地になるのか?」という、やや衝撃的な見出しの記事が掲載されました。日本企業が山東省の農地を借りてトウモロコシなどの栽培に乗り出す契約を、地元政府と締結した、というのです。刺激的な見出しの効果か、この記事はたちまちネット上のあちこちに転載され、注目を集めました。人民網日本語版にも抄訳が掲載されています。

 しかしよく読んでみると、それは5年も前の出来事でした。なんでそんなことが今時、こんな記事になって伝えられたのでしょう?

 

2.土地は不足資源

 記事が伝えていたのは、アサヒビールが伊藤忠商事、住友化学とともに2006年に設立した朝日緑源という会社が、山東省に農地を借りて、トウモロコシなどの生産に乗り出した、ということなのですが、こうした外国企業による農地の占有がこれから増える可能性があり、座視していると中国の農業生産にリスクをもたらしかねない、と識者の意見を引いて、警鐘を鳴らしています。

 もっとも、ここでいう「他国の農産物基地」とは、他国に農産物を提供するための基地ということではではなく、外国企業が中国で農業生産をする基地、という意味のようです。じっさい朝日緑源は、イチゴ、ミニトマト、スィートコーンなどの栽培のほか、牛乳生産もしていますが、すべて中国国内向けで、輸出はしていません。中国の農業事業に外資が参入することが問題だ、ということのようです。

 ですが、批判の矛先が向いているのは、どうやら農業問題もさることながら、 土地問題でもあるようなのです。

 記事は、識者の見解として、外資は中国の安い労働力だけでなく、安い土地も利用しようとしている。中国の土地は不足資源なので、外資が大量にこれを占有するような事態は避けなければならない、と指摘しています。

 広大な中国の土地を「不足資源」と言われても、ピンと来ませんが、確かに耕地の割合は低く、農民1人当たりの耕地面積がかなり狭いのは事実です。さらに最近、都市近郊農村で白熱している土地争奪戦を考えると、資産価値が高騰し、貴重な財産となっていることは間違いありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

                         

                                                      朝日緑源のホームページ から

 

 

3.批判の矛先は

 奇しくも、2011年5月26日の『日経新聞』朝刊コラム「私の履歴書」に、瀬戸雄三アサヒビール元会長が、この事業の思い出を書いています。それによれば、この事業のきっかけとなったのは、当時の張高麗山東省党委員会書記から、中国の「三農問題」解決への手助けを依頼されたことだった、ということです。言い換えれば、この事業の推進役は山東省側であり、日本側ではないわけですから、『経済参考報』の記者がその事実を認識していたなら、批判の矛先は山東省党委員会もしくは張書記に向いていることになります。

 張書記は石油部から広東省幹部に転出し、深圳市党委員会書記を経て、山東省党委員会書記、省長になりました。朝日緑源の設立は、その時期の話です。その後、2007年に現在の天津市党委員会書記に異動するとともに、中央政治局委員となっています。胡錦濤総書記の評価も高いらしく、次世代の有力な政治家の一人と見られています。したがって深読みすれば、ポスト胡錦濤体制をめぐる後継争いの余波が及んだのか、とも想像されますが、それを証明するような根拠があるわけではありません。 

 さしあたり、記事が取り上げている不足資源としての土地問題について、話をすすめていきましょう。

 

4.白熱化する農村の土地争奪戦

 周知のように、中国では都市の土地は国有ですが、農村の土地は集団所有です。どちらも所有権の譲渡は認められていませんが、土地使用権は次第に流通が自由化されてきています。流通自由化では、国有土地使用権が遥かに先行し、今世紀に入ってからはほぼ自由化されたといってよく、しばしばニュースなどでも紹介されているように、不動産フィーバーに沸き返っています。

 一方で農村の集団所有土地は、まだ厳しく制限されていますが、地価高騰の影響もあって、少しずつ自由化の方向に動きつつある状況です。都市・農村一体化政策のもとで、農村を都市に変更し、集団所有土地を一気に国有化してしまう手法は別項(消える農村)でご紹介したとおりです。現在はこうした手法と並行して、集団所有土地そのものの使用権を流通させる実験が、一部地域で始まっています。

 

5.請負経営権なら外資もOK

 ただし、この実験の対象となっているのは、農村土地のなかでも、建設用地として区分されている部分で、この土地は農業以外の目的に使用することができます。そのため、流通が解禁されれば、住宅用、商業用などに転用することができ、不動産市場に組み込まれることになります。ただし現在のところ、外国企業がこの使用権を取得することは認められていません。

 これに対し、農業生産のための耕地は、使用権ではなく、請負経営権として流通が認められており、外国企業でも取得することが可能です。朝日緑源の場合は、農民が請負土地を拠出して土地協同組合を設立し、これを介して請負経営権をリースする形になっています。この土地は農業目的以外に使用することはできませんが、同社は農業事業を展開しているので、まったく問題はありません。

 

6.金儲けのチャンスを渡すな

 さて、話をさらに将来に向けて進めてみましょう。朝日緑源の農場は莱陽市沐浴店鎮にあります。莱陽市(県級)は、山東省では青島市に次ぐ第2の都市で、省内最大の港湾都市でもある煙台市(地区級)の中にあります。市や鎮は行政上、都市に分類されていますので、その土地は基本的に国有ですが、農場所在地は農民の集団所有地ですので、いわゆる〔城中村〕(都市の中の農村)ということになります。

 「消える農村」でも書いたように、山東省あたりのこうした農村地域は、都市化の有力候補地でもあり、あるいはそう遠くない時期に、都市化され、土地も国有化されるかもしれません。そうすれば、今は耕地とされる農場も、都市の土地となり、不動産市場で流通が可能になります。価格も一気に上がるでしょう。大儲けも夢ではないかも。*

 目先の利く投資家なら、きっとそう考えているに違いありません!?

 朝日緑源が設立されたころには考えも及ばなかったことが、今は手の届きそうなところまで来ているのです。おそらく5年も前の話が、今頃記事になった理由は、このような周囲の状況の変化によるものではないかと推測すれば、納得できるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  

                                                                朝日緑源の所在地

 

 

7.思わぬ行き違い

 朝日緑源の農場は、現在100haですが、将来的には200haにまで拡張する計画だそうです。これほど広大な土地

を外資に押さえられ、さらに後続部隊もやってくるとなると、たとえ今は耕地とはいえ、近い将来を見越して投資物件

を血眼で探している開発業者たちにとって、やがて邪魔な存在になることは確実です。

 瀬戸元会長は、この事例が成功すれば、あと20~30は同じものを作りたい、と表明しており、その言葉は『経済参

考報』の記事にも紹介されています。そのとき、 朝日緑源が借りている土地の広さを計算すると・・・。

 このようなモデル農場が成功し、普及すれば、中国の農業にとっても好ましい効果がもたらされると思われますが、

少し視点を変えて、土地問題としてみると、はやくも過熱した争奪戦の渦中に巻き込まれようとしている、ということな

のでしょうか。

 

    朝日緑源のホームページ   http://www.asahibeer.com.cn/greensource/japan/index.html

 

 * 詳しくは拙稿「中国から消える農村 ―― 集団所有制解体への道のり」 をご参照ください。

 

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