中国法入門
田中信行研究室
中国法について知ろう
悲しき裸の官僚
・孤独な官僚
「裸の王様」ならぬ「裸の官僚」〔裸体官員〕とは、家族を海外に送り出し、みずからは単身で職にとどまっている官僚のことを言う新語です。
なぜ「裸」なのかと言えば、家族から離れて単身であるだけでなく、資産も海外に移して、自分自身もいつでも海外へ移住できるように身辺を整理し、丸裸状態で生活しているから、ということのようです。ちなみに、子供だけを海外に送り出し、配偶者は国内にいる場合を「半裸」と言い、配偶者、子供の全員を海外に送り出している場合は「全裸」と言うそうです。
このこと自体は別に法律で禁止されているわけではありませんが、問題はそれが何のためにおこなわれているか、という点にあります。
・官僚は裸が好き?
ここでいう「海外」とは、おもに米国、カナダ、欧州、オーストラリアなどを指していますので、中国公務員の年収などを考慮すれば、子供一人を留学に送り出すだけでも相当な負担となるはずです。いくら官僚とはいえ、国有企業などに出向している場合を除いて、年収にそれほど大きな格差があるわけではありませんから、送り出した家族が海外で就職でもしない限り、裸になるのは容易ではありません。
しかし1995~2005年の10年間の統計では、118万人の裸の官僚が在籍していたそうですから、約700万人と言われる中国の公務員数を前提とすれば約6%となり、官僚に限定すれば、それが占める比率は相当高いものになるはずです。
では、なぜ中国の官僚は家族の海外移住にそれほど熱心なのかと言えば、それが不正な蓄財とつながっているから、ということなのです。もちろんすべての裸の官僚が、腐敗行為につながっているわけではありませんが、近年その傾向が強まり、これに対する対策が強化されていることは間違いありません。
・トップにはなれません
2006年に中国共産党は、「党員指導幹部が報告すべき個人的関連事項についての規定」を改正し、家族が海外に定住している場合、その状況を報告することを義務づけました。
その後、2009年に広東省深圳市は「党政正職の監督を強化するについての暫定規定」を制定し、家族が職務上の理由以外で海外に定住したり、外国籍、永住権を取得した場合には、党および国家の正職(長のつくポスト)または重要部門には就けない、と規定しました。
2010年に監察部が定めた「国家腐敗予防局2010年工作要点」も、深圳市のような具体的対策をとるよう指導しています。
この問題が難しいのは、家族を海外に送り出すこと自体は違法行為ではないため、違法行為に結びつく可能性がある、というだけで、これをどう規制できるか、という点にあります。過度な規制をおこなえば、公務員の子供は海外に留学することもできなくなってしまうからです。
2012年1月に広東省党委員会は、「市・県指導グループ建設を強化するためのいくつかの問題についての決定」を全体会議で採択しましたが、そのなかには深圳市の規定と同じ内容の規定が含まれています。全国ではじめての省レベルの規制措置ということで、非常に注目を集めています。ただし、広東省の場合には「原則として」という条件が加えられており、一律に排除されるということではないようです。
人民大会堂大会議場で開催される全国人民代表大会
最高人民法院
2015年6月11日に、第1審判決を受けた周永康
人民大会堂大会議場で開催される全国人民代表大会