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                            朝日新聞「紅の党」の盗用問題

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                           大連視察中の江沢民(手前)と薄熙来(左端)   出所:boxun.com

 

 

 

1.初回の記事に盗用が 

  朝日新聞には2012年6月から、「紅の党」という、中国共産党をテーマとした連載記事が掲載されていますが、余り知られていない情報を多く含んでいることが評判になり、朝日新聞の取材力を評価する感想も少なくなかったようです。

  しかし、その冒頭を飾った第1回目の記事(「『皇帝になる』 主席接待で台頭」、6月23日付朝刊)は、その主要な部分を占める特ダネ情報の大半が、既存の評論文から盗用した内容だったのです。

 

2.問題箇所

  盗用されたのは、『大連日報』の元記者、姜維平氏が2009年8月に『大紀元』というWebサイトに投稿した、「江泽民大连之行丑闻追记」という文章です。

  中国語が分からない方のために、原文の該当箇所を以下に示しておきます。これを眺めただけでも、ある程度は、見当がつくのではないでしょうか。

 

① 江沢民の巨大肖像画にかんする記述

  「虽然,自从1976年毛译东死了之后,他的画像还挂在北京天安门上,邓小平等历任党的领导人还没有谁敢仿照毛泽东,搞画像敬拜这一套,但薄熙来为了以示忠心,在时隔23年之后,在大连市中山路197号附近,挂起了巨幅彩色江泽民画像,・・・

  薄熙来命令下属买通了江泽民的司机,故意在车辆到达中山路松山街时,放慢了速度,江泽民认出了道南这栋洋气的小楼就是大名鼎鼎的化物所旧址,又猛一抬头看到了自已的半身画像,与不久前的题词,赫然耸立。他立即眉开眼笑,满脸油光,一张大蛤蟆嘴咧得大大的,不停地点头。后来薄市长听说了这个好消息,一夜高兴得没睡。」

 

② ドイツ製盗聴器の使用にかんする記述

  「接近薄市长的人表示,为了知道江泽民与人接触时的讲话,薄熙来斗胆让大连国安局启用了从西德进口的一种监听设备,由国安特工车克民驾车与使用,这个东西在距离上述住宅百米之内,可以听到他们所有的谈话。在那段时间,薄用这个仪器把江泽民玩于股掌之上,而他们毫不察觉,还以为薄熙来是忠臣。」

 

③ 8万元分の銀行カードにかんする記述

  「一位大连新闻界的消息人士说,他亲眼看见大连一个官员给了他一张银行卡,上面存了多少钱不得而知。另一个接近随行人员的人说,大连之行薄安排下面跑腿的,分发了许多这种银联卡,每张多少钱,大慨不会少于8万吧。」

 

3.朝日の対応 

  姜氏の原文を読んだことのある筆者(田中)は、朝日の記事を読んだときに、内容の重複に気づき、出所が明示されていないことに違和感を感じていました。そこで後に、これについてのコラムを書き、その点を問題として指摘しました。(「『紅の党』と新聞の取材力」、『中国研究月報』、2013年3月号)

  筆者としては、朝日新聞が事実関係を検証し、適切な判断を下すことを期待したのですが、その期待は見事に裏切られました。

  まず同社広報部長から、筆者の指摘は事実無根であり、記者および同社に対する名誉棄損であるから、直ちに訂正、謝罪せよ、との書面が届きました。次に、同社代理人という弁護士から、速やかに訂正、謝罪しなければ法的措置をとる、という内容の「通告書」が送られてきたのです。

 

4.「引用」についての反論 

  その後、朝日新聞の坂尻信義・前中国総局長が、『中国研究月報』(「薄熙来事件に始まった連載 『紅の党』を振り返って」、2013年11月号)に反論を書かれましたので、その要点をご紹介します。同氏は以下のように書いておられます。

  「田中氏が論考のなかで挙げたサイト『大紀元』中の姜氏の評論について、当社はその内容を精査したが、同一の文章はどこにも存在しない」。

  「同一の文章」という点については説明が必要と思われますが、じつは筆者は上記コラムを書くにあたり、朝日の記事は「引用」である、と書いたのです。正確には「剽窃」、「盗用」とすべきところですが、それでは違法行為だと断罪するような印象になり、それを避けたいと、「引用」に置き換えたのでした。

  朝日の見解によれば「引用」とは、「同一の文章」、つまり完全な「コピペ」のことを指す、ということのようなのです。

 

5.「引用」の定義 

  筆者は長く大学に在職していましたので、研究論文を書き、学生に論文指導もおこなってきました。原則として「引用」については、以下のように対応しています。

  ① 原典と同一の文章を記述する場合は「」で括り、出所を示す。

  ② 自身の表現に書き換える場合は、「」は使用せず、たんに出所のみ示す。

  つまり、朝日は①しか「引用」とは認めない、ということのようなのです。これは坂尻氏個人の見解ではなく、朝日新聞社としての見解のようで、上に引用した同氏の文章は、筆者に送られてきた広報部長からの書面のものと同じです。

  しかし、同社のHPに掲載されている「朝日新聞記者行動基準」は、「著作と引用」について、次のように定めています。

  「記事の素材として、著作物から文章、発言、数字等を引用する場合は、出典を明記し、適切な範囲内で趣旨を曲げずに正確に引用する。盗用、盗作は絶対に許されない」。

  この規定は、明らかに多少の書き換えも引用に含まれることを認めており、①だけではなく、②も引用と認めていると解釈されます。

 

6.どう判断?

  姜氏の原文は中国語ですので、坂尻氏のような解釈をすれば、「引用」は起こりえません。仮に直訳なら「同一の文章」と枠を広げてみても、朝日の記事は字数の制約を受けているため、原文よりかなり簡略化された記述になっています。 したがって①でないことは明らかですが、②でもないというには、かなり無理な内容ではないでしょうか。①だけが「引用」である、といういささか強引な主張は、裏を返せば、この記事が②にあたることを認めているようにも受け取れます。

  このページをお読みになった皆さんは、どのように判断されるでしょうか。

  ちなみに、筆者としては研究者の端くれとしての立場上、②を「引用」には当たらない、と認めるわけにはいかないので、朝日新聞社に対し、訂正、謝罪することは、お断りしています。

 

 

  【参考文献】

   高井潔司「朝日問題の背景に過信と驕り」、『メディア展望』2014年12月号    PDFファイルはこちら

 

 

 

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