中国法入門
田中信行研究室
中国法について知ろう
中国の死刑制度
1.世界1死刑の多い国
中国は世界1死刑の多い国と言われていますが、その実数は公表されていませんので、実態を確認することはできません。アムネスティなど死刑制度に反対している海外の団体が指摘しているところによれば、中国では毎年おおよそ数千人が死刑を執行されている、という推計が多いようです。
2012年3月に開催された全国政治協商会議における検討会で、衛生部の黄潔夫副部長は、現在の中国における臓器提供システムの不備について言及した際、現状は基本的に死刑囚からの提供に依存していることを認めたうえで、毎年約150万人が臓器の提供を待っているが、その1%しか提供できていない、と発言しています。
この数字を前提にすれば、死刑の数がおおよそ数千人という数字は、きわめておおざっぱではありますが、妥当な数字のようです。
2.刑法の規定
中国の刑法は1979年に制定されていますが、このときは15の条文で28の犯罪について最高刑を死刑と定めています。
しかし、1980年代には犯罪が増加したことに対応して、これらを処罰するための単行法規が相次いで制定され、そのなかで最高刑を死刑とする犯罪も急速に増加しました。刑法が改正される前に制定された23の法規では、新たに46の犯罪に死刑が適用されており、刑法を含めた死刑可能な犯罪の数は74にまで増加していたのです。
1997年に改正された刑法では、死刑を規定する犯罪は68に減っていますが、これは罪名など規定の仕方が改められただけで、実質的な変化はありませんでした。
注)単行法規によって増加した犯罪数を49と数える説もあります。
2011年に制定された刑法修正案(第8号)は、建国以降の中国における刑法史上、はじめて死刑を減らした法改正となりました。暴力をともなわない経済犯罪、例えば窃盗、密輸、詐欺、偽造など13の犯罪について、死刑を廃止したため、現行法では最高刑が死刑となる犯罪は55に減っています。
また、未成年、妊婦については死刑は適用されませんが、この法改正によって満75歳以上の高齢者についても、とりわけ残忍な犯行の場合を除いて、死刑は適用されないことになりました。
注)2015年の刑法修正案(第9号)によって、死刑を最高刑とする罪の数はさらに9つ減り、46となりました。
表:刑法に規定された最高刑を死刑とする罪の数
3.死刑判決の審査
中国の裁判は4級(最高、高級、中級、基層)2審制ですが、死刑が求刑される可能性のある刑事事件は、中級人民法院以上の法院で審理されます。ただし最高人民法院以外で出された死刑判決は、それだけでは確定せず、最高人民法院で審査されることになっています。死刑判決については、実質的に3審制が採用されている、とみなすことができるでしょう。
この手続きは1979年の刑事訴訟法で規定されたものですが、死刑条文の増加について上述したのと同じ理由で、1981年にはこの審査権が高級人民法院に委譲されました。この審査権委譲が、その後の死刑の増加に結びついている、という批判は、中国国内にも根強く存在していました。
そこでこのような批判に応えるという意味も含めて、ようやく2006年に全人代常務委員会は人民法院組織法の改正に合わせて、この死刑判決審査権をすべて最高人民法院に戻す、という決定をおこなっています。
2007年の1年間に最高人民法院は、地方法院が下した死刑判決の15%を取り消した、と報告されています。
4.死刑の種類
中国の死刑には、即時執行の死刑と、2年間の猶予期間がついている死刑とがあります。
後者は中国独自の制度と言え、きわめて珍しいものです。伝統中国法との類似性も指摘されていますが、建国初期に反革命分子を厳しく処罰する一方で、死刑をなるべく少なくする方法として導入された、と指摘されています。
基本的には、2年間の服役態度を観察したうえ、改悛の情が認められれば、無期懲役以下に減刑される、という制度です。運用の実態としては、大半が減刑の対象となっており、猶予期間付き死刑判決は限りなく無期懲役に近い、と解釈されています。
5.死刑の執行方法
死刑の執行方法は、基本的には銃殺刑です。1997年に改正された刑事訴訟法で、銃殺のほか、「注射などの方法」も認められるようになり、一部で注射による執行もおこなわれていますが、まだ少数にとどまっているようです。
人民大会堂大会議場で開催される全国人民代表大会
最高人民法院
2015年6月11日に、第1審判決を受けた周永康
人民大会堂大会議場で開催される全国人民代表大会