中国法入門
田中信行研究室
中国法について知ろう
司法解釈は“なぜ”重要なのでしょう
1.司法解釈の立法的役割
司法解釈とは法律解釈のひとつで、 中国ではこれを立法解釈、行政解釈、司法解釈の3つに分類しています。立法解釈は全国人民代表大会およびその常務委員会が、行政解釈は国務院が行うのに対し、司法解釈は最高人民法院および最高人民検察院が行うものを指しています。
法律解釈とは言うまでもなく、すでに存在している法律に対して、その意味するところを、国家機関が公式に解釈する、いわゆる有権解釈のことを言いますが、中国では司法解釈の場合、実態として、法律が存在しないところにも、司法解釈が存在するケースが少なくありません。つまり、司法解釈はたんなる「解釈」ではなく、事実上、相当程度まで立法的役割をも果たしているのです。
2.マルチ・プレイヤー
中国では、1980年頃までの法制度は崩壊状態にあり、法律が制定されていても実態からかけ離れていたため、ほとんど守られていませんでした。改革・開放が始まってからは、急速に整備されてきましたが、まだ30年の歴史しかなく、そのあいだにも社会主義体制から市場経済体制へと激しく変化したため、立法作業にははかりしれない負担がかかりました。
2000年以後の中国は、法治国家として、あるいはWTO加盟国として、ひとまずそれにふさわしい法制度を整えるに至りましたが、それでも多くの部分で不足があることは否めません。また、立法を急いだ結果として、重要な法律では主要な部分を規定し、細部は実施細則にゆだねる、という手法が多用される傾向があることも、否定できません。多くの場合、実施細則は関連する行政機関によって定められることになりますが、司法解釈にゆだねられるケースも少なくありません。
また、制度改革が進行中の場合には、法律の制定が見送られたり、制度形成のために法律を制定しようとしても、意見がまとまらない場合などもあります。こうした場合に、紛争解決の基準として司法解釈が作成され、それが法律の代役を務めている例も散見されます。
このように現在の中国では、司法解釈が法制度の不足部分を穴埋めする役割を担って、本来の任務以上に大活躍している状況といえるでしょう。
3.司法解釈は絶対です
中国の法体系は憲法、法律以下、行政性法規、部門規則、地方性法規によって構成されていますが、ビジネス・シーンで重要な役割を果たしているのは、大半が国務院の各部門によって制定される部門規則です。しかし実のところ、この部門規則には、法としての絶対的な有効性が認められていないのです。
つまり、裁判官は判決の形成にあたって、部門規則を参照することは求められていますが、必ずそれにしたって判断する必要はないのです。あまり知られていませんが、これは中国ビジネスに携わる人々にとって、おそらく非常にリスキーな中国法の問題点といえるでしょう。
ただし、だからといって過剰に心配する必要もないと思います。部門規則は、これを定めた行政部門の個別の利害や思惑に影響される面があるため、このような安全弁がつけられているのであって、善意でこれにしたがった当事者が不利益を被るような判断は、中国の裁判官もしないはずです。ですが、このような問題があるということは、一応頭の片隅に入れておくべきでしょう。
これに対し、司法解釈は司法機関自身が定めたものであるため、司法の場では絶対的な有効性が保証されています。その意味でも司法解釈は非常に重要な存在です。法律を調べた後は、必ずそれに関連する司法解釈がないか、調べてみましょう。
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