top of page

                                       消える農村

 

 

 

・諸城市から消えた農村

  2010年8月23日の『人民日報』が伝えたところによると、山東省諸城市で6月以来すすめられてきた行政区画の再編により、全市1249の行政村が廃止され、208の社区に統合されたということです。これによって諸城市は、全国ではじめての農村(=行政村)のない(県級)市となりましたが、こんなことが法律上許されるのか、と話題になっています。

  周知のように、中国は全国土が都市または農村に二分され、国民も、都市に住む住民と、農村に住む農民とに区分されています。戸籍も都市戸籍と農村戸籍に分けられ、農村戸籍の人は基本的に都市戸籍への変更が認められていません。一方、都市の土地は国有のため、住民は土地を所有することが認められていませんが、農村の土地は農民による集団所有とされています。このように中国社会は、都市と農村という地域によって区分された二元的管理

が、基本的な特徴となっています。

  このような二元的管理は、もともと貧しい社会を安定させ、食糧を確保する必要から、農村の生産人口を確保するために工夫されたものでした。したがって改革・開放後、経済が発展した1990年代頃からは、戸籍制度を改革し、二元的管理体制を廃止するよう求める声が高まっていました。戸籍制度の改革はすでに部分的な成果をあげ、都市と農村のあいだの壁は少しずつ低くなっていますが、まだ全廃への道筋が見えてきた状況ではありません。

 

・城郷一体化へ

  しかし、戸籍制度改革とは別に、行政区画それ自体を農村から都市に変更してしまうという手法が、経済の発展とともに加速してきたようです。とりわけ、2004年以降は「城郷一体化」(都市と農村の一体化)、「村改居」(村を町に)という政策が全国的に展開されるようになり、最近の10年間で全国の行政村(郷の1級下の行政区画)は、ほぼ半減しました。

  諸城市の例はその完成型で、県(郷の1級上の行政区画)の中の農村が完全消滅し、丸ごと都市に変更されたというわけです。

  農村が都市に変更された場合、戸籍もすべて都市戸籍に統一されるため、それがメリットになる可能性はあります。ただしその一方で、集団所有の土地が国有に変更されるため、農民は土地という財産を失うことになります。諸城市の場合、請負土地に変更はないとしているようですが、将来的にこれを維持することができるのでしょうか。

  農村請負土地についての一般的な対策としては、「ふたつの交換」という手法が普及しているようです。つまり、ひとつは請負土地を社会保障と交換し、もうひとつは農民の住宅(土地+家屋)を新しい集合住宅に交換する、というものです。諸城市でも、すでに約1000棟の集合住宅を建設し、2万世帯を移住させたということですから、基本的にはこのような手法を採用しているものと思われます。

 

 

 

 

 

 

 

 

                                            

                               諸城市で建設中の新しい農村社区住宅

 

 

・農村土地の国有化策                

  諸城市は、行政村に代わって新しく設置された区を、農村社区と呼び、請負土地も変更はしないと表明していますが、この農村社区では村民委員会を廃止して、都市と同じ住民委員会を設置するなど、都市と農村の境界をあいまいにした対策を示しています。しかし、このような都市と農村の制度が同居するような社会は、法律上も認められるか疑問の声が上がっています。

  「城郷一体化」政策は、明らかに農村の経済開発を目指したものであり、農村土地の国有化がひとつの重要な柱になっていることは間違いありません。

  現在、全国の農村で一般的な農村土地請負契約は30年が期限とされ、2020年頃から順次契約の更新が始まるものとみられています。しかし、この30年間で農村の状況は激変しており、現在のような原則で農地を再配分することは、ほとんど不可能と思われます。そのように考えると、いささか強引な手法ではありますが、国有化も有力な選択肢のひとつには違いありません。

  とはいえ、土地は農民にとって最大の財産ですから、国有化に当たっては相応の補償が必要となります。「ふたつの交換」は、その補償策を示したものですが、政府の財政負担も莫大なものになるため、どこまで実現可能か、心配な面もあります。

  請負土地に変更はないとする諸城市の対応は、もしかすると農民の不満を和らげるための時間稼ぎにすぎず、いずれは国有化に踏み切るつもりなのかもしれません。しかし農民にとってみれば、土地がどうなるかは死活問題ですので、小手先の対応ではとても乗り切ることはできないでしょう。

 

 

 

 

 

bottom of page