中国法入門
田中信行研究室
中国法について知ろう
相次ぐ弁護士の連行
1.710事件
2015年7月9日に始まった弁護士の強制連行事件は、翌10日に全国規模で集中的に発生しましたが、その後も五月雨式に増え続け、人権派弁護士の活動を支援している香港の団体、〔中国維持権律師関注組〕の報告によれば、8月7日までに267人(弁護士事務所の事務員などを含む)に達したとのことです。
この事件は、7月10日(金)に集中的に発生したため、「710事件」と呼ばれたり、「暗黒の金曜日事件」などと呼ばれていますが、近年進められてきた弁護士活動に対する管理の強化が、ひとつの節目を迎えたことを示すものと受け取られていますが、一方で司法改革とのかかわりもあり、この取締りがどの範囲まで広がるのか、注目を集めています。
2.鋒鋭弁護士事務所が標的
連行された弁護士などのうちには、連絡が取れなくなって居所不明とされている者も数名含まれていますが、大半は短時間の拘束の後、釈放されています。中国維持権律師関注組がまとめた情報によれば、彼らの現状は以下の通りです。
・ 267名の内訳
1.刑事拘留および住居監視 ・・・ 17人(弁護士12人、その他5人)
2.居所不明者 ・・・ 6人(弁護士3人、その他3人)
3.行政拘留 ・・・ 4人(全員拘留15日)
4.軟禁 ・・・ 5人
5.短期拘留、事情聴取 ・・・235人(弁護士122人、その他113人=全員釈放済み)
これら267人のなかには弁護士本人のほか、その家族、弁護士補佐、事務員などが含まれていますが、1、2を合わせた計23人が、長期にわたって拘束される可能性があるものとみられています。
対象となった弁護士は全国に広がっていますが、1、2の対象となった23人の大半は、北京にある鋒鋭弁護士事務所と李和平弁護士事務所の関係者で占められており、前者が9人、後者が4人となっています。
3.新華社が説明
本件にかんして新華社は7月11日に、「“維権”事件の黒幕を暴く」と題する長文の解説記事を配信しましたが、これによれば、鋒鋭弁護士事務所の〔維権律師〕(人権派弁護士)は犯罪集団の一員である、と断定されています。同事務所は2012年7月以降、40件余りの政治的な事件にかかわり、社会秩序を著しく乱した犯罪集団とされています。
公安当局が示した見解によれば、伏線となったのは5月27日に呉淦という人物が、福建省の公安に暴行・騒乱罪で刑事拘留された事件のようです。呉は近年、人権活動家として活動しており、鋒鋭弁護士事務所に事務員として勤務していましたが、実際の業務は単なる事務ではなく、事務所の人権保護活動を支援することであったと言われています。ただしそのような活動から、公安当局の監視対象となり、〔超級低俗屠夫〕とあだ名され、拘留、連行を繰り返していました。
新華社の記事は、そのような呉の活動を断罪し、鋒鋭弁護士事務所主任である周世鋒弁護士の責任を厳しく追及しています。
呉 淦
4.事件の展開
今回の弁護士強制連行事件は、その範囲が全国的に広がっているため、対象がどこまで広がるか注目を集めていますが、これまでのところは鋒鋭弁護士事務所との関係が調査の対象とされているようです。したがって、問題の対象が新華社の記事の範囲で収まるのであれば、おおむね事件は落着し、あとはその処分がどのようになるかという点に問題が絞られることになるものと思われます。ですが、第2、第3の犯罪集団が・・・という話の展開にならないとも限りません。
ただしその一方で、司法改革の必要性が叫ばれ、「依法治国」の強化が目指されているこの時期に、なにゆえこのような取り締まりが実施されたのか、という疑念もぬぐいきれず、今後、容疑の対象となった犯罪の内容がどこまで明らかにされるのか、注目せざるをえませんし、犯罪集団と決めつけられた彼ら自身の弁護活動が法律どおりに保障されるのかも、注視していきたいところです。
8月7日に明らかにされたところによれば、拘留中の王宇弁護士(鋒鋭弁護士事務所)との会見を求めた弁護人に対し、天津市公安局河西分局は、同人の容疑が国家権力扇動・転覆罪であることを理由に、許可しないと回答したそうです。国家機密にかかわる犯罪の場合、公判も非公開となりますので、裁判全体がヴェールに包まれてしまう可能性は小さくありません。
人民大会堂大会議場で開催される全国人民代表大会
最高人民法院
2015年6月11日に、第1審判決を受けた周永康
人民大会堂大会議場で開催される全国人民代表大会