中国法入門
田中信行研究室
中国法について知ろう
全人代代表に占める女性の割合
中国は女性の社会進出が活発で、専業主婦はほとんど存在しない状況ですが、それでも職場の重要ポストに占める割合は、男性に比べてかなり低いようです。別項で、“無知少女”が優遇されている近況について述べましたが、それはまだ相対的に低い女性の地位を引き上げる政策の一環である、ということもできます。
2010年6月に公表された「“婦女権益保障法”の実施状況についての報告」は、そうした女性問題の現状を知るうえで、大変参考になりますが、そこにひとつの興味深い指摘がありますので、これについて解説してみたいと思います。
・女性代表の割合は22%
興味深い指摘とは、全人代代表に占める女性の割合が向上している、という内容です。何だ、そんなことか、と早合点しないでください。問題は、いかにして女性の割合が向上しているのか、というメカニズムにあるのです。
上記「報告」は、「2007年に第10期全人代は、第11期全人代代表に占める女性の割合が22%を下回ってはならないと、明確に規定した」と指摘しています。これは、2007年の第10期全人代第5回会議で採択された、「第11期全人代代表の定数および選挙問題についての決定」が、「女性の割合は22%を下回ってはならない」と定めたことを指しています。
しかし、これはちょっと変ではないでしょうか。女性代表が何人当選するかは選挙の結果次第であって、事前に何人当選するべき、というようなことは、決めておくべきものではありません。中国の選挙法第6条は、「女性代表の割合を少しずつ引き上げなければならない」と規定していますが、これはその方向性を示したもので、女性代表の割合を引き上げることを、具体的に義務化したものではありません。
・比率も党が管理
全人代が、なぜ次期代表の女性比率を事前に決定したのかは、中国の選挙手続きと深くかかわっています。
中国の国家体制では、「党管幹部(党が幹部を管理する)」という原則があり、党組織のみならず、国家機関、国有企業、事業体、社会団体などのあらゆる組織の幹部人事が、中国共産党によって管理されています。しかも、その対象は任命制の人事だけでなく、選挙制の人事にも及んでいます。すなわち選挙の場合には、候補者が事前に党によって審査され、その許可を得た者だけが候補者となることができるのです。
全人代が次期代表における女性の割合を事前に決めたのは、このような選挙制度を前提としたものであって、ここではたんに努力目標として数字を設定したわけではありません。
ただし1980年代以降は、「差額選挙」といって、定数より多い候補者を立てることが法律によって義務化されたため、候補者は管理できても、すべての当選者までも事前に確定することはできなくなりました。その結果、事前に女性の代表比率を22%と決めておいても、その通りの当選者が出るということではなくなったのです。
ちなみに、 第11期代表選挙の結果では、637名の女性代表が当選しましたが、これは全体の21.33%を占めるものであり、22%をわずかに下回ってしまいました。
・なぜ22%なのか
次期代表選挙の要綱を定める全人代の決定に、女性代表の割合が規定されるようになったのは、第7期全人代(1988年~)のときからですが、常に「前期代表の割合を下回ってはならない」と規定されてきました。これは選挙法第6条の規定にしたがったもので、女性代表の割合を段階的に引き上げる政策を実践しようとするものです。しかし実際には結果がともなっておらず、第1期全人代(1954年~)の12%からはほぼ倍増したとはいえ、1980年代以降は大体21%の水準を上下している状況です。第11期の場合も、上記「報告」が自賛しているように、前期より1.2%増加したとはいえ、この水準を超えるには至っていません。
そもそも、女性代表の割合を22%と設定すること自体、ちょっと変ではないでしょうか。この数字自体、党によって管理されたものなのですから、どうせなら50%に設定されてもいいような気もするのですが。よく考えてみると、この数字は女性代表の割合を引き上げるというよりは、抑制するためのものではないという疑念も湧いてきたりします。22%という、妙にリアリティーのある数字の根拠は、いったい何なのでしょう。
人民大会堂大会議場で開催される全国人民代表大会
最高人民法院
2015年6月11日に、第1審判決を受けた周永康
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