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                            居住証は戸籍改革の決め手?

 

 

 

 

1. 迷走する戸籍改革

  2010年から北京、上海、広州などの大都市では、暫住証から居住証への切り替えが、本格的に実施されるようです。広東省では1月、「広東省流動人口サービス管理条例」を施行して、約3000万人といわれる省内の外来人口に交付されている暫住証を、順次居住証に切り替えていくことになりました。北京、上海もこれに追随するため、その準備を進めているとのことです。

  日本のように住民票制度がない中国では、一時的にでも戸籍所在地を離れる場合には、戸籍を移動しなければなりませんでした。改革・開放政策によって、大量の労働者が都市へ出稼ぎなどで移動するようになった1980年代には、この手続きを簡略化するため、1985年の「都市暫住人口管理についての暫定規定」(公安部)にもとづいて、暫住証が発行されるようになりました。しかしこの暫住証は、治安管理の観点から一時的な居住を認めるためだけの目的で発行されたものでしたから、暫住証の所持者はあくまで外来人口として、都市に戸籍をもつ市民とは区別されていました。

  経済発展が加速した1990年代になると、大都市への戸籍の移動が部分的に緩和されるようになり、各都市では経済発展に必要な一部の優秀な人材に限って、一定の条件のもとで都市戸籍を与える試みが普及し始めました。ですが、このような差別的な政策には反発も強く、より抜本的な改革、すなわち都市戸籍と農村戸籍の統一という、戸籍制度改革が求められるようになりました。

 

2. 暫住証から居住証へ

  そのような動きに合わせて、2001年には湖南、広東、福建など一部の省で戸籍が統一され、一方で、一部の者を対象とする都市戸籍優遇策は廃止されるようになりました。しかしその後も、全国規模での戸籍制度改革は容易に進展せず、依然として都市へ流入した人たちが、なかなか都市戸籍を取得できない状況が続いています。そうしたなか、外来人口の不満を緩和するため、ようやく2010年になって、4つの直轄市(北京、天津、上海、重慶)を含む大都市をはじめ、各地の都市において暫住証を居住証に切り替える措置が、順次開始されることになったのです。

  居住証の新しい特徴は、各都市で違いはあるものの、医療や社会保険などの面で、戸籍をもつ市民と同等の待遇を保障していること、一定の期限(5年~10年)を経たのち、都市戸籍の取得を可能にしていることなどが、現在のところは、おおむね共通点となっているようです。とはいっても、完全に市民と同じ待遇というわけではないので、暫住証より改善されたとはいえ、外来人口が二級市民として差別化されている現状の問題を、解消するものにはなっていません。

  居住証自体は、すでに瀋陽、重慶、上海、北京などの各都市で、2000年代の初め頃から実験的に始められたものの、ほとんど普及しなかったという前科をもっています。いうまでもなく、上記のような外来人口への待遇保障を実現するためには、それなりの財政負担が必要だからです。現在の暫住証は毎年の更新料が、1人当たり数百元もするため、その財政収入も馬鹿にならないと指摘されており、地方政府にとっては辛いところなのでしょう。

 

3. 居住証は戸籍制度改革の決め手になるか

  このように見てくると、今回の居住証への切り替えという措置が、実質的にどのような効果をもち、戸籍制度改革という点において、暫住証よりもどれほどの前進をもたらすものであるかは、さらにこれからの展開を見守る必要があるように思われます。実際に居住証への切り替えが、どの程度のスピードで普及するか、大いに注目されるところです。また、法律上保障されることになるはずの一部の公共サービスが、遅滞なく実施されるかも重要なポイントとなる

でしょう。

  ただし、この居住証への切り替えという政策の意味について考えると、これを無条件で歓迎する人がいるとは思えません。というのも、おそらくその政策が持つ意図は、戸籍の統一という抜本的制度改革を先送りにし、明らかに時間稼ぎを狙ったもののように受け取れるからです。居住証を5~10年も持ち続けなければ、都市戸籍を得られないという仕組みは、そのあたりをタイムリミットと考えているからなのでしょう。事実、政府は2020年までに戸籍の統一を

実現するという目標を明らかにしていますので、その間は居住証で我慢しなさい、ということなのでしょう。

  もっとも、居住証によって多少の恩恵を受けることができるのは、外来人口の一部に限られます。都市戸籍の取得には一定の年限だけでなく、一定の納税義務を果たすことなども条件とされていますし、そもそも居住証の取得自体にも一定の条件が付されている点は、暫住証と変わりありません。

現在、とりわけ大きな問題となっているのは、暫住証さえ手に入れることのできない、農村からの貧しい出稼ぎ者たちで、彼らは暫住証所持者の倍以上は存在しているものと推定されています。彼らにとっては、居住証もまた無縁の存在でしかあり得ないことに変わりはないのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

                                        

                                                                 左が新しい居住証、右が現在の暫住証

 

 

 

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